会議の途中で、自分のズボンのチャックが全開なのに気づく。席は立てず、同じ卓に部長もいる。閉めるには長押しでチャックを上げるしかないが、静かな会議室では閉める音がよく響く。誰かが喋っている間だけ、音は紛れる。隣の人の首が動いたら、見られる前に手を止める。閉める途中で一度、必ず引っかかる。足りなければ咳払いで音を隠せるが、数人がこちらを向き、使えるのは2回までで、3回目は体調を心配される。発表の順番が回ってくるまでに閉まっていれば勝ちである。狙ったのは、誰にも言えない小さな失敗を一人で処理する、あるあるである。
所長です。チャックを閉める速さは、日替わりで2.0秒から2.8秒です。ゲームとしては、息をひそめて指を動かすだけで、褒められるところは少ないです。自慢できるのは、誰が喋っているか、咳払いがどれだけ音を隠すかを、一つずつ計算している点です。誰も気づかない種類の丁寧さです。